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福岡高等裁判所 昭和42年(う)469号 判決 1967年10月11日

被告人 宋斗洪

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

ただし、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

右猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

本件控訴の趣意は、長崎地方検察庁佐世保支部検察官松岡幸男名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人苑田美毅提出の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

控訴趣意(法令適用の誤り)について

被告人は、本邦に在留する韓国人であつて、昭和四一年九月五日宮城県石巻市長から外国人登録証明書の交付を受けたものであるところ、同年一二月二四日頃東京都内において右登録証明書を紛失しその事実を知りながら、以後一四日以内に登録証明書の再交付の申請をすることなく、右期間をこえて本邦に在留したので、昭和四二年三月七日和歌山地方裁判所新宮支部において右外国人登録法違反罪により懲役三月、二年間執行猶予に処せられ(同月二二日確定)、同日釈放されたが、その後においても登録証明書の再交付の申請をすることなく、福井県敦賀市、東京都、金沢市、岡山市を経て、同月二九日長崎県佐世保市に至つたところ、同日警察官により登録証明書不携帯の罪により逮捕され、引き続き勾留され、同年四月一七日外国人登録法第七条第一項、第一八条第一項第一号の登録証明書再交付不申請の罪により起訴され、同日改めて右起訴事実により勾留されたが、同月二四日登録証明書の再交付の申請をし、同年五月六日その再交付を受けたものであることは、本件証拠上明らかである。

ところで、外国人登録証明書再交付不申請の罪は、再交付の申請をするまで継続するいわゆる継続犯であるが、これに対する確定判決の既判力は、原則としてその第一審判決言渡時(例外として上訴審の破棄自判の判決言渡時。)以降の事実には及ばないこと勿論である。原判決は、判決言渡時以降の事実に既判力が及ばないからといつて当然判決言渡後直ちに新たな再交付不申請の罪が成立するものということはできず、既判力の問題と実体法上の新たな犯罪の成立時期の問題とは明確に区別されるべきであり、継続犯の被害法益の性質および憲法第三九条後段の一事不再理の原則の趣旨を考えて新たな再交付不申請の罪の成立時期を決すべきであるとし、再交付不申請の罪により一度有罪判決を受けた者に対してはできる限りその判決を理解し納得したうえでその趣旨に従つて申請義務を履行する機会と余裕とを与えることが適当であり、また必要であり、被告人には第一審の有罪判決に対し無罪や量刑不当を主張して上訴する権利が認められており、その期間を徒過しあるいは上訴が棄却されてもはや争う余地がなくなつた段階においてはじめて、被告人は自己の行為を違法なりとしてこれに対し刑罰権を行使せんとする国家機関の判断に服することを余儀なくされるのであるなどの理由を挙げて、新たな再交付不申請の罪の成立時期は判決確定の日から一四日を経過したときであるとし、被告人は前記新宮支部の判決確定後七日目に逮捕されて以来拘束されており、被告人には拘束中に再交付の申請をすることについて期待可能性がなかつたとして無罪の言渡をした。

しかしながら、実体法上、継続犯である外国人登録証明書再交付不申請の罪は、単に一四日以内に再交付の申請をしないということではなく、再交付の申請をせず右期間をこえて本邦に在留することであつて、登録証明書を失つたことを知つた日から再交付の申請をせずに一四日を経過すると既遂に達するとともに、その後再交付の申請をするまで継続するものであつて、ただその間にその事実について確定判決があればその言渡時までの部分について既判力が及び憲法第三九条後段の一事不再理の原則に基く既判力の問題として右部分について再び刑事責任を問うことができなくなるだけのことであるから、実体法上は確定判決の言渡後ただちに新たな再交付不申請の罪が成立するものというべきである。継続犯の被害法益の性質および憲法第三九条後段の一事不再理の原則の趣旨を考えても、新たな再交付不申請の罪の成立時期を右と異り原判決のように解さねばならないとは考えられない。また、判決あるいはその確定によつてはじめて再交付申請の義務が生ずるものではないから、前記原判決のいう理由によつても、新たな再交付不申請の罪の成立時期を原判決のように解さねばならないとはいえない。なお、原判決は確定判決の言渡後ただちに新たな再交付不申請の罪が成立すると、執行猶予の判決を受けて釈放された被告人をただちに同罪により拘束しあらためて訴追できることになるというが、その時は原判決のいう期待可能性の理論によつて解決すれば足りることであり、本件については被告人は前記新宮支部の判決言渡後二〇数日間全く自由の身であつたのであるから、被告人には再交付の申請をすることについて期待可能性がないとはいえない。

したがつて、被告人に対し無罪の言渡をした原判決は法令の解釈適用を誤つたもので、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れず、論旨は理由がある。

そこで、刑事訴訟法第三九七条、第四〇〇条但書により原判決を破棄し、さらに次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、本邦に在留する韓国人であつて、昭和四一年九月五日宮城県石巻市長から外国人登録証明書の交付を受けたものであるところ、同年一二月二四日頃東京都内において右登録証明書を紛失しその事実を知りながら、以後一四日以内に登録証明書の再交付の申請をすることなく、右期間をこえて本邦に在留したので、昭和四二年三月七日和歌山地方裁判所新宮支部において右外国人登録法違反罪により懲役三月、二年間執行猶予に処せられたが、その後においても登録証明書の再交付の申請をすることなく、引き続き本邦に在留したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示行為は、外国人登録法第七条第一項、第一八条第一項第一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で、被告人を懲役四月に処し、諸般の情状を考慮し刑法第二五条第二項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、同法第二五条の二第一項後段により右猶予の期間中被告人を保護観察に付し、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により原審および当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 塚本富士男 安東勝 矢頭直哉)

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